Profile
株式会社AQSim代表取締役倉橋 康平

株式会社AQSim 代表取締役 倉橋 康平 氏は、北海道大学水産学部に在学中の2023年9月、同大学OBや学生ら7名とともに株式会社AQSimを設立しました。北海道大学水産学部の研究成果を社会実装につなげる起業家として注目されており、函館市に本社を構えて活動しています。

株式会社AQSimは、陸上養殖のシミュレーション技術を活用し、「収益最大化と温室効果ガス最小化を両立する持続可能な養殖産業の実現」 を目指すスタートアップ企業です。
函館市という水産研究の拠点に根差し、地域と連携しながら水産業の新しい未来を切り拓こうとしています。
そんな倉橋 康平さんに、「函館発スタートアップから見る函館市の魅力と可能性」と「今後の展望」についてお話を伺いました。

私は北海道大学水産学部に入学し、学部4年生だった2023年に「株式会社AQSim」を設立しました。翌年に卒業し、現在は北海道大学大学院水産科学院の修士課程に在籍しています。
出身は大阪ですが、「地元を離れて学びたい」という思いから北海道大学に進学しました。水産を学ぶ中で最初に知ったのは、「日本の水産業は衰退している」という現実でした。現場を訪ねるとアナログな手法が多く、農業のようにDXが進んでいないことに違和感を覚えました。
一方で、大学の研究は非常に進んでおり、学問と現場の間に大きなギャップがあると感じました。その双方を理解し、つなぐ存在が必要だと考えたことが、起業のきっかけです。
函館市を選んだ理由は、水産の本場である北海道大学水産学部があり、すぐそばに現場があるからです。現場の声を直接聞き、それをすぐに実践に活かせる環境が整っている点に、大きな魅力を感じました。私は「アカデミックと現場をつなぐこと」を自分の役割と考えており、困っている人が身近にいる場所でこそ課題解決に取り組めると考え、函館市で事業を始めました。



日の出町の養殖場で「ホシガレイ」の陸上養殖に取り組んでいます。ホシガレイは本州で獲れる魚で、天然ものは高値で取引される希少な魚です。東北地方から種苗を仕入れて育成しており、施設には20トン水槽が5基あり、年間4〜5トンの生産が可能です。
函館市内の飲食店での提供に向けて試験出荷を進めており、今後は生産量を順次拡大し、地元飲食店を中心に流通を広げていきたいと考えています。
この取り組みでは、開業から約100年の歴史を持つ函館の地元企業と連携し、同社が所有する空き加工場を養殖場として活用しています。
函館では近年、イカをはじめ漁獲量の減少が続き、水産加工業が厳しい状況にありますが、使われなくなった加工場には、水・電気・冷凍設備など、陸上養殖に適した環境がそのまま残されているケースも多くあります。
私たちは、こうした地域の遊休資源を有効に活かしながら、函館発の新たな特産品づくりと地元の雇用創出につなげていきたいと考えています。
現在、北海道大学水産学部の学生約8名を雇用し、養殖や地域の食に関心を持つ学生たちとともに活動しています。学生たちは実際に養殖の現場に入り、日々の作業やデータ収集を通して、魚を育てる難しさや面白さを学んでいます。私たち自身も学生と共に考えながら、次の世代を育てる取り組みを進めています。
近年は陸上養殖の自動化が進み、「人がいなくてもできるのでは」と思われることもありますが、魚の状態を的確に把握するためには人の目が欠かせません。状態判断を誤れば全滅のリスクもあるため、現場を支える人材の育成は非常に重要だと考えています。
北海道全体でも人材不足は課題となっていますが、函館市のように教育機関と連携できる地域だからこそ、解決の糸口を見いだせるのではないでしょうか。特に、全国的にも知名度の高い北海道大学水産学部と連携することで、産学連携のモデルケースとして発展させていけると考えています。
大学の知的財産を活用しているため、すぐに利益を生むサービスではないということです。5年、10年というスパンで商品開発を進める必要があるディープテック分野なので、短期的な収益化が難しい点が課題です。
養殖事業者に話を聞いても「そんなの使えない」と言われることも多いので、まずは研究者の方に使ってもらう、あるいは自社で養殖を始めて段階的に進めていく、という工夫をしています。会社を長く続けるためのレジリエンスが大事だと考えています。
地域の強みとしてまず感じるのは、やはり高度教育機関の多さですね。学生も多いですし、若い人材を活かしやすい環境が整っています。大学との連携もしやすいと感じています。
一方で、水産業については将来への課題もあります。函館市の資料でも「10年後には漁業者が半減する」といった見通しが示されていますが、そうならないようにしていく必要があると思います。
函館市の水産業は天然資源に支えられ、ブランド力も非常に高い。観光との結びつきも強く、消費力のある地域です。今後は、そうした観光によるブランディングの力を一次産業に還元していくことが大切だと考えています。
例えば、港にはかつての漁業拠点としての設備がありますが、今は漁船が少なく、十分に活用されていない場所も多い。そこを観光や魚の直売所などに活用し、漁業者に利益を還元できるような「海業(うみぎょう)」という新しい形を進めていけたらと考えています。
また、今は陸上養殖の注目度が非常に高い時期でもあります。貴重な魚種や地域に根付いた魚を陸上で育てることで、地域全体の水産ブランドをさらに高めるきっかけになると思っています。最終的には、地域全体のブランド価値向上につなげていければと考えています。
私たちは、「日本の水産業を成長産業にしたい」という想いを掲げて事業を進めています。
その中でも、養殖業は非常に重要な要素だと考えています。陸上・海面いずれの養殖も、大量生産によってコスト競争力を高め、海外と戦っていくという方向性もありますが、日本の強みはそこだけではありません。
日本には魚食文化の多様性があります。多様な魚種を、刺身などの生食を含めて、さまざまな料理法で楽しむというのは、他国にはない文化的な価値です。そうした「高品質なものを小ロットで生産する」という日本らしいスタイルを養殖でも活かしていきたいと考えています。
また、地域の方々との協力も重視しています。たとえば白老町では漁協や地元事業者の方々に協力いただき、海水利用などの面でも支援を受けています。地域の遊休資源を活かし、初期投資を抑えながら、持続的な生産モデルを築くことができるのではないかと思っています。
自社での養殖にも取り組んでいますが、それを地域事業者への成功事例として共有し、広げていくことを目指しています。少しずつ生産量を増やしながら、地域に根ざした価値ある魚づくりを進めていきたいと考えています。
函館市では、「創業バックアップ助成金」を採択していただき、初期費用を賄うことができました。これは非常にありがたかったです。
また、市役所の方々もとても活動的で、いろいろな場面でお会いする機会があります。そうした中で、スタートアップや新規事業に関する情報共有やマッチングなども積極的に行われており、大変助かっています。
函館市には、「新しいことに挑戦する人を応援してくれる風土」があると感じています。 陸上養殖のように、なかなか成果がすぐに出ない事業でも、一次産業や食に関わる取り組みであれば「地域のためになること」として支援してくださる方も多くいらっしゃいます。
私自身も、そうした地域の方々に支えられながらここまで進めてこられました。社会的な意義がある取り組みであれば、すぐに収益化できなくても理解し、応援してくれる人が多い。そういう意味で、函館市はいい街だと思います。
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